リアルタイムレンダリング 第4版 (Real Time Rendering Fourth Edition 日本語版) の監修について

リアルタイムレンダリング 第4版 (Real Time Rendering Fourth Edition 日本語版)の監修をさせていただきました。

発売されためでたい時期での話ですが、先に自分の力不足を告白させていただきます。そのつもりはなかったのですが、甘く考えていたようです。ページ数は1100頁を超え、出版もなるべく早く出せるのが良いとスケジュールがタイトになっていたのはわかっていたのですが、なかなか手を進めることができませんでした。また、今回、監修は2名になっているのですが、他にもご協力いただいた方々がいました。貴重な時間を使って協力いただいたのに、お名前を残すような出来にできず、申し訳なく思っております。ということで、残念ながら至る所で間違いが残っております。監修時には下記のように用語をディスカッションしたりもしているのですが、治っていなかったり、他の用語でも間違っていたり通常は使われない用語で記載されている箇所があるかと思います。

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しかし、ここは宣伝ブログw!良いところを見ていきましょう。

この本の何よりも良いことは、非常に高い網羅性です。リアルタイムなCGの技術について、余すところなく記されています。最近、ゲームエンジンを使ってビデオゲームを作ることが標準的になってきたので、低レベルな知識に触れる機会は減ってきています。が、細かな問題の原因を探っていくと、低レベルな知識が必要になる場面に必ず突き当たります。その時に、辞書的に情報が得られるのが本書です。特に、第4版になってきて、飛躍的に情報が増しています。紙で出版されることが念頭にある書籍はどうしてもページ数に物理的な制約を受けます(1000ページを超える本はいかにも綴じるのが大変そうです)。本書は版を進むにつれて、内容の説明ということから、情報へのリンクという意味合いが強くなってきました。各項目の内容の説明はさらっと行われ、適切なリンクを示すことで、最新の深いトピックスへたどり着くことができるようになっています。現在の、論文・解説資料の量は膨大です。その中の適切な場所にたどり着くのに、本書は最適な書籍となるでしょう。

この本は、今までも大量のリアルタイムCGに関連する技術書を翻訳されてきた中本さんの翻訳です。翻訳は、「意訳は極力せず、よくわからなかったときは原書の該当箇所がすぐわかるようにしている」という方針で進められているとお聞きしました。ということで、よくわからないときは、英語版の対応する場所にすぐに行きつけるはずなので、いまいちな監修でもなんとかしやすくなっています。

という非常に良い本。私はこの本の日本語版をどうしても出したいと思っていました。それは、同じ研究室の先輩(年下ですが)が、発信していたツイートにあります。

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これは、CGの研究者が少ないということに関する他の先生とのやり取りに関するスレッドでのツイートでした。このツイートをひそかに読んで、「ゲーム(のCG)の基礎とは何だろう?」と思ってリストアップしてみました。で、実際に洗い出して感じたのは、「これ、Real-Time Rendering本の内容じゃない?」ということでした。もちろん、Real-Time Renderingに書かれていることがゲームにおけるCGの全てではないですが、本書の内容を把握しておけば、ゲームのグラフィックスにおける基礎は十分に習得できるのではないかと思っています。

そして、もう一つ、どうしてもこの本を出したかった理由が、川西 裕幸さんです。御存じの方も多いと思いますが、前の日本語版の翻訳をされていたマイクロソフトのエバンジェリストの川西 裕幸さんは、書籍の出版やCEDECなどでの登壇・ハンズオンセミナーを通じて、DirectXはじめ、日本でのリアルタイムレンダリング・ゲーム技術の拡散を牽引してくれていました。しかし、残念ながら交通事故で亡くなられてしまいました。川西さんが亡くなられてから、日本では定番かつ本格的な書籍の翻訳がほとんど出てこなくなったように思います。Game Engine GemsやGPU Zenは日本語に翻訳されていてもおかしくないですが、日本語版はありません。この事実にふと気が付くと、川西さんの偉大さを慮ります。誰かに頼まれたのではなく、自ら考えて日本のゲーム業界の発展に尽力されていたんだなぁと、お話として聞いていた新幹線通勤での翻訳作業を想像しながら、良い人から先に逝く悲しさに目が潤んでしまいます。しかし、後に残った我々は先に進まなければなりません。川西さんが点けてくれたこの灯を消さないために、お話を聞いた瞬間に引き受けさせていただく決心をしました。しかしながら、私の力不足を露呈してしまっただけになってしまったかもしれません。川口さんには、空の上から優しい笑顔で「イマギレさん、まだまだですねぇ」と笑ってくれていると救われるなぁと個人的には思っています。

いろいろな想いはございますが、リアルタイムなグラフィックスについて他にはない価値を持つ書籍です。本当に出版されて良かったです。ゲーム会社であれば各社一冊ずつ、できればグラフィックスプログラマ一人に一冊そろえていただきたいです。もちろん、グラフィックスプログラマであれば、会社の本は経費で買ってもらい、自宅用にもう一冊自分で買うのは言うまでもありません。

第4版と共にあらんことを!

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